「ラ・ナプール」―今一番気になるフレンチ

 2002年の或る夏の日、小田原から程近い、相模湾に面した早川という漁港の傍の素晴らしいフレンチレストランに巡り会いました。
 私の手帳(行きたい店リストがびっしり!)には、たぶん3年以上前から「ラ・ナプール」の名が書かれていましたが、東京からやや遠いこともあり後回しになってしまっていました。今となっては「もっと早く行けばよかった…!」と、後悔しきりです。
 さて、わざわざ高速を飛ばして食べに行くくらいですからもちろんとても期待はしていましたが、それ以上の満足度と完成されたお皿の数々に感動しました。久しぶりに「また行きたい」「人に薦めたい」お料理に出会いました。
 都内には、言うまでもなく沢山の素晴らしいフレンチレストランがありますし、「この人の作ったものを食べてみたい」と思わせるシェフも大勢いますが、気に入ったお店にはついつい足しげく通ってしまうので、なかなか新しいお店を開拓できないのが現状です。そんな中で、またひとつ、お気に入りのレストランを見つけられたことはとても嬉しいことです。
 出がけにお店のサイトに目を通した段階では、かさごの“イカスミソース”、アワビの“肝ソース”あたりの一癖ありそうなソースに心惹かれていたこともあり、カルトで注文しようかなと思っていました。ところが、いざお店に入り15,000円のコースを見ると、いいとこ取りの欲張りコース!といった感じで、食べたい物のオンパレード! 普段は、好きなものだけをたっぷり食べたい派なのですが、初めてのお店ということもあり、それに、シェフもこれを全部食べてもらいたいと思ってるんじゃないかな?などと勝手に判断したりして、コースで頼むことにしました。
 そもそも、メニューを見た段階で、コースが魅力的なお店って滅多にないんですよね、どこかひとつ物足りないというか、無難な感じがして…。そういう意味でも「これはイケるぞ」という期待感で、内心ワクワク。そしてそれは、アミューズのトマトのスープで「次の料理も間違いない!」という確信に繋がりました。
 さて、まず前菜の『ウニとういきょうのカクテル』。コンソメのジュレと雲丹を使った前菜はいろんなお店で食べたことがありますが、ういきょうの不思議な爽快感がなんとも言えず心地よく、脳天に訴えかけてくるような感じでした。家人もこれがとても気に入ったようで「今度ういきょう入れた料理を何か作ってよ」なんて言っていましたし。(んーー、インドカレー作る時に粉末のを使ったことくらいしかないからなぁ…)
 続いてのフォアグラには、なんとライチや苺のソースが・・・。実は私、フルーツを使った料理ってニガテなんです。生ハム&メロンも客観的には理解できますが好きではありませんし、酢豚にパイナップルが入ってるなんて絶対に許せない。ですから、ちょっとドキドキしながらライチとフォアグラを一緒に口に運びました。(普段だったら果物を皿の向こうへ除けてしまうのですが不思議とそんな事は考えもしませんでした)うーむ。合う。美味しい。意外。・・・そんな感想。甘酸っぱいフルーツの味でフォアグラがとても引き立っていました。まさに脱帽。私もこういう取り合わせを美味しいと感じられるようになったなんて、少しは大人になったかなぁ・・(笑)
 そして、ラングスティーヌのスープ。これまた超絶品!!本当に、これはただただ幸せな気分で食べ続けました。私、甲殻類はスープでいただくのが一番好きなんです。ブイヤベースとかね。「ヌキテパ」の魚の裏ごしスープに優るとも劣らぬ旨さ。思い出すだけで涎が出ます。。。
 そうそう、私の経験上、スープが美味しいお店は他の料理も全て美味しい(断言!)。スープって、最もシェフの誠意が伝わってくる料理のような気がします。
 あー、一品一品語っていたらキリがありません。
 全てのお皿が甲乙つけ難い美味しさで(こんなことって本当に稀です!!)あわびの肝ソースの味も忘れられませんし、かさごのポワレのイカスミソースは、なんとなく中華っぽい出汁のような不思議な味を感じたのですが、これも大好きな味でした。かさご自体もとっても好きな魚ですし。
 コースのメインは本来鴨のローストだったのですが、残念ながら売り切れで食べられず、しかし逆に二人別々のお料理(プラチナポークと茸のソテー&羊のパイ包み)をオーダーさせてもらえたので、得した気分でした。(笑)
 私は大の肉好きで、羊肉やヘビーな内臓料理なども大好きなのですが、大食漢の私でも、メインの頃ってさすがにお腹が一杯で、そういう時に羊を食べると結構もたれることが多いんです。でも、今回いただいたパイ包みは、お肉もいい意味であっさりしていて、でもしっかり肉の味はあって、大葉の効果も相俟ってペロっといけちゃいました。プラチナポークも塩味で普通ソテーしたようなシンプルなお料理で、それだけに美味しさが際立っていたような気がします。
 ・・なんだか、長々と書いてしまいましたが、本当に、最初から最後まで美味しくいただきました。
 デザートは、桃のコンポートや、バラのアイスと紅茶のゼリーなど、薫り豊かなものが多く、最後まで優雅な気分に浸れること間違いナシって感じです。
 実は、お店に訪れる前の印象は、主に地物や新鮮な魚介を用いたり、全体の素材のイメージからするとかなりイタリアンに近い料理も想像できたのですが、実際いただいてみると、全てがフランス料理以外の何物でもない。デザートに関しても、グランメゾン級の店でも適当なデザート盛り合わせみたいなものを出すところがある中で、ここはきちんと考えられていて、丁寧に作られている。何より、細やかな素材の合わせ方にシェフの強い意志と必然性を感じました。成澤さんは本当に素晴らしいシェフだと思います。
 去年の秋にも、食べ友達がお誕生会をここで開いてくれましたが、やはり文句無しの美味しさでした。
 そういえば、東京に移転するって話だけど、なんかそれはそれで残念な気が…。あのロケーションと、“小田原くんだりまでわざわざ食べに行く”という意気込みを与えてくれることも、「ラ・ナプール」の魅力の一つだと思っているので。

「ラ・ナプール」〔小田原〕0465-23-2572